ぼくが小学生の頃、家の風呂は五右衛門風呂だった。
鉄の風呂釜で下からまきを燃やして温める風呂である。
その頃ぼくが風呂を炊く係りだった。
その日もいつものように、細く割った木を組んで、
その下に新聞紙をくしゃくしゃと丸めてマッチで火をつけた。
新聞紙に火がついてメラメラと木にも火がついて燃え始めた時に、
突然、かまどの中から一匹の猫が飛び出してきた。
猫の毛にも火がついて燃えていた。
ぼくは突然猫が飛び出してきたので、ギョッとしたが、
多分もっとギョッとしたのは猫のほうだったろう。
冬の日で、野良猫がかまどの灰の奥の方で、
気持ち良く寝ていたにちがいない。
そこに突然ぼうぼうと火が燃え出したわけだからあわてないわけがない。
その火のついた野良猫はススだらけになり、
大やけどをして、もう死んでしまうかなとかわいそうに思った。
ところがどっこい野生は強かった、だんだんにやけども治り、
その上うちに上がり込んでとうとう家の猫になってしまったのである。
名前はもう忘れてしまったが、茶色のしま猫で運がいいだけでなく、
気だてのいいやさしい雄猫だったよ。
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