ダイヤモンドオンライン2011.4.5付け記事より
それにつけても「100億円」である。ソフトバンク社長の孫正義氏が東日本大震災の被害者支援のために、個人で100億円を寄付することを明らかにした。さらに今年度から引退するまでの毎年の役員報酬(2009年度実績は約1億800万円)も全額寄付するという。
これまでにも「楽天」の三木谷浩史社長や、「ユニクロ」事業を展開する「ファーストリテイリング」の柳井正会長が、いずれも個人として10億円を寄付することを明らかにしている。いずれも大きな話題になったが、やはり「個人で100億円」のインパクトは大きい。日本の寄付文化を根底から変えてしまうのではないか、そう思わせるほどの衝撃を与えた。自分で財団を作るとか、土地を寄進するのではなく、100億円ものお金を他者に寄付するというのは、日本ではおそらく初めてのことではないかと思う。最大規模の個人寄付であることは間違いない。
孫正義氏が日本の社会貢献の形を変えた?
今回の震災被害者支援で特徴的なのは、その寄付額の「大きさ」。そして、誰もが競うように寄付をする、その「熱情」である。ビジネス、スポーツ、芸能などさまざまな分野のリーダー的存在の人たちは軒並み、これまででは考えられなかったような金額の寄付を表明している。
野球界ではイチローの1億円を筆頭に、松坂大輔8000万円、ダルビッシュ有5000万円など。芸能界では、AKB48の5億円、宇多田ヒカルの8000万円、安室奈美恵の5000万円、浜崎あゆみの3500万円など。マスコミ界では久米宏の2億円。海外からも、クリント・イーストウッドとサンドラ・ブロックがそれぞれ8000万円(100万ドル)。ペ・ヨンジュンは7300万円。イ・ビョンホンは5000万円である。
社会貢献やチャリティとは縁遠いイメージのあったホリエモンも「チームたかぽん」を結成。個人がファンドレイジングできる寄付サイト「Just Giving Japan」で寄付を募り、自身の約6000万を含む、チーム合計約7000万円の寄付を集めている(4月4日現在)。
チャリティが仕事の一部と化しているハリウッド・スターや韓流スターはともかく、日本のスポーツ、芸能スターまでが、これまでにない多額の寄付をこぞってしている。誤解を恐れずに言えば、いまの日本は未曾有のチャリティ・ブームなのである。
一般の生活者も寄付に熱心だ。筆者の周りには被災者支援のための募金活動をしている若者が多数いるが、3日間の街頭募金で100万円を集めたなどという話は毎日のように聞いている。
阪神淡路大震災が起きた1995年は、後に「ボランティア元年」と呼ばれるようになったが、2011年は後に「チャリティ元年」と呼ばれるようになるだろう。そんな状況の中での、孫正義氏の100億円寄付の話である。この寄付について、日本ファンドレイジング協会常務理事の鵜尾雅隆氏はこう語る。
「今回の震災では、億単位の大口の寄付が出ているのが特徴的ですが、その中でも抜きん出た規模であり、日本の寄付文化成長へ与える好影響を期待します。また、単発の寄付にとどまらず、今後の年収をずっと寄付しつづけるという、継続的なコミットメントは高く評価されるべきだと思う。ビジネスリーダーの社会貢献の新たな一歩を示しています」
他社を圧倒する、ソフトバンクの支援活動
鵜尾氏が指摘するように、東日本大震災の被災者支援活動における孫正義氏のリーダーシップは群を抜いている。
ソフトバンクモバイルでは震災翌日の3月12日には義援金プロジェクトを立ち上げ、特設サイトを開設。同日から「白戸家のお父さんデジタルコンテンツ」による壁紙募金を開始。翌週15日にはチャリティダイヤルをスタートさせ、16日には、鳥山明描き下ろしデジタルコンテンツを追加。震災で孤児となった子どもたちに、18歳まで通話料無料の携帯電話の提供を決定。さらに、震災で故障したり、紛失したりしたiPhoneを無料で提供すると発表した。
Yahoo!JAPANでは、地震直後の11日夜から「緊急災害基金」への募金を開始し、1日強で約1億円を集めたのは前回の記事でも紹介したとおり。現在(4月4日時点)の募金金額は約13億6千万円に達している。また、復興支援ポータルサイトも開設。チャリティやボランティア情報など、被災地支援に役立つ情報が満載されている。さらに、SMAPまで起用したCMも大量に放映。
とにかく、ソフトバンク・グループの被災者支援活動は際立っている。他の企業も、これまで以上に支援活動を頑張っているが、規模、内容共にソフトバンク・グループは群を抜いている。存在感が違う。
その違いを生み出しているのは、孫正義氏のリーダーシップであるが、その強いリーダーシップはどこから生まれているのか。今回の震災被害に立ち向かう強烈な意志の力をどうやって持つことができているのか。それはおそらく、孫正義氏の「日本に対しての深い愛情」あってのことなのだろう。坂本龍馬のファンとして有名な同氏だが、その背景にはやはり日本という国への愛情がある。だからこそ、国難に立ち向かう気力が生まれ、決断力が備わり、的確な施策を矢継ぎ早に打ち出せるのだ。これは単なる精神論ではない。愛情の有無や強さがマーケティングを決定するという話である。
今回、一連のソフトバンク・グループの動きが、ソフトバンクモバイルの契約者数増加にどれほど貢献できるかはまだ不明だ。しかし、マインド・シェアは確実に上がっている。携帯キャリア3社の中での見え方も変わったはずだ。そして、なによりも日本の若者、とりわけ被災地の若者に大きな希望を与えたと思う。国家的な危機状態にあって、リーダーシップを発揮できないリーダーが、この国にはたくさんいる。一方で、強いリーダーシップを発揮して、大きな支援を行なう孫正義氏がいる。若者は素直に、このような人物をカッコイイと思うものなのだ。これは、マーケティングやCSRの見地からも、着目すべきことである。
「何のためにやってきたのか?」自社のCSRを改めて問い直すとき
今年の企業のCSRのテーマは、「東日本大震災とどう向き合うか?」ということ以外にあり得なくなった。しかし、これは意外と難問で、これまで途上国支援に向けられていたCSR予算を被災者支援に振り替えればよいという話ではない。そうかと言って、これまで途上国や障害者支援のために計上されていたCSR予算に、被災者支援の予算を上積みすれば良いという話でもない。
重要なのは、「これまで行なってきたCSR活動の延長線上に、被災者支援、被災地支援をどう位置づけるか?」という視点だ。「自分たちは一体、何のためにCSR活動を行ってきたのか?」、そのことをもう一度問い直し、その思考作業の中で震災被害に立ち向かう必要がある。具体的な方法論は、企業がそれまでに行なってきたCSRのテーマ、活動内容によるので一概には言えない。ただし、基本的な考え方のヒントは示しておこう。
例えば、これまで途上国の子どもたち支援のために、学校や図書館を作ってきたとしよう。この場合は、これまで支援してきた途上国の子どもたちから、被災地の人たちへの応援メッセージを届けるといった方法がある。このとき、途上国の子どもたちには、自分たちは支援されるだけでなく、支援する側に立つこともできるのだということを理解してもらうこともできる。その理解が、途上国の子どもたちに自尊心と希望を与えるだろう。もちろん、被災者の人たちにも勇気と元気を与えられる。
これはほんの一例だが、このような発想が今年のCSRには求められるようになるだろう。
被災地ではいまだに生活物資が不足しており、救援物資の提供が必要だ。しかし、あと2~3ヵ月もして、仮設住宅が建ち並ぶ頃になれば、「復興支援」の段階に入る。CSRの真価もこの段階で問われることになるだろう。
「復興支援」は長期戦だ。メディアの露出も格段に減り、世間からも忘れられやすい。寄付もボランティアも、これまでのようには集まらないだろう。しかし、「緊急支援」と同様に、「復興支援」はとても重要。壊滅状態の町を、以前にも増して良い町に復興させる。「Build Back Better」を実現させるために、CSRは何ができるのか。企業が問われていることはそういうことだし、その答えを出し実行した企業と、そうでない企業の差は、10年後にはずいぶんと大きなものになっていると思う。
それだけ、今回の孫正義氏とソフトバンク・グループの一連の行動が、日本の寄付文化とCSRに与えた影響は計り知れない。
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