2011年3月21日月曜日

二月の部屋

ぼくが小学校の時読んで今でも時々思い出す話がある。

あるところにお茶屋さんがありました。

そこにきれいな娘さんが、毎朝一番にお茶を買いに来ていました。こんな美しい娘は知らない。

番頭はどこの娘か不思議に思い、その後をつけていきました。

娘はひとやま越え、長い野原を通って林の中にはいりました。その中には立派な御殿がありました。

番頭は恐る恐る「こんにちは。」と呼んでみました。すると中からいつものお娘さんが出て来て、

「あら、番頭さん、よくおいでなさいました。お上がり下さい。」とにっこり笑うと、中に招き入れました。

そこは庭の見える座敷でした。白い梅、赤い梅、橙の梅、いろんな梅が咲き誇り、鶯が枝に止まり、ないていました。

一羽が鳴くと、答えるように一羽が鳴き、続いて歌うように鶯が鳴きはじめました。

番頭がみとれていると、娘さんがお菓子やお餅、海や山のごちそうを運んできて、もてなしました。

娘さんは番頭さんをひとしきりもてなすと、「用事があるから出て参ります。

番頭さんはここで遊びながら留守番をしていてください。」と番頭に頼みました。

そして、「つぎの座敷は十二座敷だから、けっして見てはいけませんよ。」と、言い残して出て行きました。

番頭は次の座敷が気になって仕方ありませんでした。ふすまの向こうには何があるんだろう? 

ひとり残された番頭は、「見てはいけませんよ。」と言われた次の間を、こっそり開けてしまいました。

襖の向こうは、お正月の座敷でした。床の間には松竹梅、鏡餅、海老や昆布、橙などが飾ってあり、

小さな子供が何人も赤い着物を着て甘酒を飲んでいました。

次の間は二月の座敷。初午(はつうま)のお祭りで、御稲荷さんの赤い鳥居が並び、

大勢のお参りの人が玩具や金魚すくい、いろんな出店の間にあふれていました。

三月の間はお雛さま、お内裏さまやお雛さま、五人囃子、そしていろんな遊び道具がありました。

四月の間は花御堂、子供のお釈迦様が甘茶の中に立っておられました。

五月の間は端午の節句、

六月の間はお山参り、

七月の間は七夕、

八月はお月見、

九月は十三夜、

十月は秋祭り、

十一月は夷講でした。

次のふすまを開けると十二月の座敷でした。最後のふすまでした。

このふすまを開けると、あの娘さんの言いつけを最後まで破ってしまう事になりました。

番頭は迷いました。後には夷講の、にぎやかな声があたりに響いていました。

番頭はとうとう最後のふすまを開けてしまいました。

目の前には師走の正月支度で、忙しい町が広がっていました。

その時、「ホーホケキョ!」とウグイスが鳴きました。

そしてたくさんのウグイスが、サァ~ッと翔んでいきました。

すると屋敷は野原にかわり、番頭はその中に、ぽつんとひとり、立っていたのでした。

後になって番頭は、そのお屋敷が鴬の内裏というめったに行けない所だと、知ったと言うことです。

この話はいろいろなバリエーションがあるようだ。

ぼくが小学校の時に読んだ話では、だいたいこの話と似てるのだが、

二月の部屋だけは見ないで欲しいと言われて、例のごとく開けて見てしまうと梅の枝にウグイスが

ホーホケキョと鳴いて、そのとたんすべてが消えてしまうというものだった。

昔話のパターンに見てはいけないものを見てしまう話があるが、


人間てやつは禁止されると破りたくなるのが常のようだ。


それにしても原子力という二月の部屋を開けてしまった人類は


大量の核兵器と大量の原子力発電所を作り上げてしまった。


消えてなくなるのが人類でありませんようにと今は祈るしかない。




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